はるちんのひとりごと

自分の思いを自分の言葉で。喜びも悩みも不安も悲しみも、ぜんぶひっくるめてこの生き方が、誰かの心を救えたらいいな。私の言葉が誰かの人生を照らせたら最高だなぁ。 "絶望だって、分かち合えれば希望になる"

はるいろ

 

 

恥ずかしいから小説風に。

こんなに大好きだと思える人にはもうきっと出会えない

と思うくらい、大好きだった。

 

 

でも、関係が終わった後、いろんなことがあって、

本当の意味で新しい一歩を踏み出し始めたから

やっっと公開する。

(名前のとこだけちょっとフィクション。)

 

 

 

 

*****

 

 

笑うと、くしゃっとなる笑顔が大好きだった。

怒りも悲しみも、最後には笑いに変えてくれた。

 

 

いつも一生懸命話を聞いてくれて

どんな感情も受け止めてくれた。

 

 

涙が溢れて止まらない時は

だまってそばにいてくれた。

 

 

心が傷ついた時は、私の代わりに怒ってくれた。

 

 

 

 

 

 


風になびいた髪の毛が、さらさら揺れる。

曇天続きの空模様。

君と出会ったのは、ある春の日のことだった。

 

 

 

 

 「ナツ。良い名前だな!」

 

決して綺麗とは言えない字でプリントに書かれた

私の名前。

 

初めて会ったとは思えないくらい親しげな笑顔で、

君はそう言った。

 

 

「ナツって呼んでもいい?」

 

 

自分が人見知りだからか、

こっちのペースを気にせずに

初対面でグイグイ来る人は苦手だ。

 

 

どうせこの人も、自分を飾る存在として

人間関係を築きたいだけ。

 

過去の経験から、そんな諦観を持ちながら

目の前の男の人を眺めている自分がいた。

 

 

 

「ありがと。夏生まれだから。単純でしょ?」

 

 

夏は苦手だ。

キラキラな世界は、私には眩しすぎて

直視できない。

 

 

心の中ではそう思いながらも

バレないように

笑顔を向けた。

 

 

「単純!

 でもその名前、ナツの雰囲気にほんと合ってる!」

 

 

 雰囲気…?

 


 「思ってること、言えないでいるんでしょ。

 でも、その"言えない部分"が、

 黒いものじゃないってことがわかる。

 

 

 腹黒さとか嫉妬とか

 そんなものを抱えてるんじゃなくて、

 "言わないでいること"が、ナツの心の中の

  優しさと悲しさを表してる。」

 

 

 

そんなことを言われたのは、初めてだった。

 

ドキッとした。

 

 と同時に、ムッとした。


初対面で、なにを根拠に、

そんな分かったようなこと言ってるんだ。

 


 

 「名前、なんて言うの。」


これ以上自分のことを触れられませんように。

心の中でそう願いながら、質問してみた。

 

 

 「サク。」

 

「ふーん。かわいい名前…」

 

「ほんとは咲也。サクでいいよ」

 

「サク。」

 

「なに」

 

「呼んでみただけ。良い名前!」

 

「思ってないって、顔に書いてあるよ。」

 


サクは笑いながらそう言った。

 

会話のリズムが、心地よかった。

 

 

人と一緒に居るのは、そんなに好きじゃない。

いろいろ感じてしまうから。

 

でも、サクは違った。

 

 

周りに何も纏っていない

自然で飾り気のない純真なオーラ。

 

 

サクの口から出てくるのはいつも

身体の中心から出てきてストン、と耳に入ってくる

真っ直ぐな言葉だった。

 

 

他の何も寄せ付けない。

サクだけの言葉。

 

 

 

サクは私と違って、

自分をよく見せようとはしなかった。

 

自分の欲に素直で、正直者で、やさしかった。

 

嘘でコーティングしたバウムクーヘンが私だとすると、

ほんのり甘いマスクの下に本当に大切な何かを

隠し持ってるシュークリームがサク。

 

剥けば剥くほど何もなくなっていく自分とは、

反対の生き物。

 

 


 

サクはよく、私の頭を撫でながら

「ナツの髪、さらさら。」

そう言って笑った。

 

 

「男の人は、ショートとロング、どっちが好きなの?」

 

私がそう聞くと、

 

「俺はショートより、ロングのほうが好きだなぁ。」 

 

「ナツに似合ってるから。」

 

 私の目をじっと見つめて、そう答えた。

 

恥ずかしくてその目を見返すことは

できなかったけれど、

とても澄んだその瞳に、出来るだけ長く

自分のことが映っていればいいな、そう思った。

 

 

 

サクはいつも、愛情を素直に言葉にしてくれた。

 

きっとそうやって、沢山の愛に囲まれて

育てられてきたんだね。

 


自分も愛を伝えたいと思いながらも

私のほうは、いつまで経っても甘えるのが苦手だった。

 

どうやって甘えたらいいのか、分からなかった。

 

 

自分の弱いところを見せて

それでも好きでいてもらえる自信もなかった。

 

 

 だから…

 

 「サクちゃん。」

 

私がそう呼ぶと、サクは必ず来てくれた。

 

 

言いたいこと言えないこと、

伝えたいこと知られたくないこと。

 

すべてがごちゃごちゃになって

頭の中がぐるぐるして

とりあえずぎゅってしてほしい時、

私は必ず「サクちゃん」と呼んだ。

 


いろんな言葉と、顔と、思いがこんがらがって

言葉じゃ説明できなくて。

 


そんな感情を、まるっと抱え込むように

サクはよく私を抱き寄せた。

 

 

 

 

帰り道は、いつも家の近くまで送ってくれた。

 

「女の子に優しくするのは恥ずかしいから」

 

そう言って、わざといつもおどけて見せた。

 

笑い方もカッコつけ方も何一つ変わらないまま、

月日が経った。

 

 

 

 

「ナツはいつも、目の前にはないものを考えてる」

 


愛とか欲とか思いとか

夢とか理想とか正義とか

形のないものについて何日も思考を巡らせてる私に

サクはよくそう言った。

 

 

目の前にあるから、愛について考えてたんだよ。

 

 

そう思いながらも、そんなことは恥ずかしくて

なかなか言葉にできなかった。

 

 

多分、きっと、サクが思ってるよりずっと

私はサクのことが好きだったんだ。

 

 

 

言葉で埋めようとしなくてもいい関係に

気づけば私のほうがハマっていった。

 

 

 

言葉にされない思いを汲み取ることのできる、

本当は誰よりも脆くて繊細で透明な心を持っていたサク。

 

 

いつしかその心は、私とは違う方を向くようになった。

 


ねぇサクちゃん。

今何してるの。

どこにいるの。


今日は何食べた?

明日はどこか出かけようよ。

 


そんな言葉を発することすら、憚られた。

 

 

サクは優しいから。

私のことを傷つけないように、けれど確実に、

私から離れていった。

 


サクの目に自分が映っていないことを、

私はちゃんと分かっていたんだ。

 

 

自分のことを話さなくなった時、人はその心に

どこか警戒心や嫌悪感を隠し持っている。

 


恐らくもう、私のことなんて好きじゃなくなって

新しい、綺麗な女の人を追いかけ始めていた君を

なんとか引き留めようと、必死だった。

 


「ごめん。終わらせよう。

 

 ナツはもう、俺の好きなナツじゃない。」

 

 


同じ季節がもう一度回ってきて

年の瀬にかかった初雪が舞う頃、

サクは静かにそう言った。

 

 

やっと言ってくれたその言葉に

心はぱりんと砕けながらも

やっと終わるんだ、と

どこか救われる思いがした。

 

 

何が変わってしまったんだろう。

私の何が、サクを苦しめていたんだろう。

 

 

 

サクに触れてほしくて一生懸命のばした髪の毛が

急に虚しく馬鹿馬鹿しく思えた。

 

 

大好きでいることが、

相手の心を苦しめてしまうなんて。

 

 

 

 

 

 

もうすぐ、今年が終わる。

 

 

去年の冬、年が変わる瞬間に

優しい声で名前を呼んでくれたサクは、もういない。


サク、ごめんね。

 

今はまだ、キラキラな思い出を

手放すことはできなくて。

 

 

いつも送ってくれた分かれ道を通る度に、

胸がきゅっとなる。

 

髪の毛が風になびく度に、

サクのことを思い出す。

 

 


新しい道を歩き始めた2人の思いが

それぞれの心の中で

宝の屑みたいに輝けるようになったら、

ちゃんと前を向いて生きていくから。

 

 


それまでもう少し、あなたへの思いに浸らせてね。

 

 


恥ずかしそうな顔を隠すように撫でてくれた

この髪とあなたのやさしい声を想いながら

君と出会った、季節を待つ。

 

 

 

 

 

Fin.